「燈台岩の死体」(横溝正史)

1921年発表、横溝投稿時代の貴重な作品

「燈台岩の死体」(横溝正史)
(「喘ぎ泣く死美人」)角川文庫

「是れは僕が
中学の五年だった時の事だ」と
沖本君は話し始めた。
沖本君の故郷M町と云うのは、
波の荒いのと
暗礁の高いのとで有名な、
熊野灘に面した海辺町で、
勿論沖本君の中学生活は
其処で送られたのだ。
彼の話によると其の…。

粗筋を紹介するのを止して、
冒頭の一節を掲げてしまいました。
横溝正史最初期の一作であり、
語り手が淡々と
殺人事件の顛末を語るだけの作品です。
しかしながら、1921年発表の、
横溝がまだ作家を志す以前の
投稿時代の作品であり、
「恐ろしき四月馬鹿」と並ぶ
貴重な一篇と考えます。

【主要登場人物】
沖本
…殺人事件に関わる人物たちの会話を
 聞いてしまう。
「僕」
…語り手。沖本の友人。
篤麿
…住吉神社の若い神主。人望が厚い。
 殺人容疑で逮捕される。
お芳
…燈台の番人の一人娘。
 篤麿を好いている。
平作
…篤麿の帽子を隠そうとした老人。
おぬい
…篤麿の継母。貞淑な婦人。
熊吉
…燈台岩で殺害された男。

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本作品の味わいどころ①
横溝らしい舞台設定

殺人事件の舞台は貧しい海辺町。
ここでなければ
成立しないというわけではありません。
しかし横溝は
「舞台」を大事にする作家です。
寂しい町、荒れる海、断崖、
濃密な人間関係、神社、
奇怪な燈台岩、古びた燈台、
殺人には全く
関わりがないにもかかわらず、
おどろおどろしさを醸し出す、
ただそれだけのために
用意周到に整えられた舞台。
後年の横溝のテイストが
このときすでにできあがっています。

本作品の味わいどころ②
人望ある若者が殺人容疑

人望ある神主が殺人容疑で逮捕される。
どう考えても「冤罪」か
「とてつもない謎が秘められている」かの
どちらかです。
読み手の興味は
否が応でも高められます。
どちらだったのかは、
読んで確かめてみてください。

本作品の味わいどころ③
人情家ゆえのすれ違い

で、結局、人格者・篤麿の、
人格者ゆえの心遣いと、
優しい継母の、
優しいがゆえの配慮が、
見事にすれ違い、事件を
難しくしていただけだったのです。
何のトリックも用いず、
殺人事件を謎に包み込む。
本格的探偵小説ではないものの、
ミステリとしての味わいは十分です。

好きになった作家の
すべての作品を読み尽くしたい。
読書家の、そして横溝ファンの
願いを叶える貴重な作品です。
未発表だった作品の多くが
高価なハードカバー本に
収録されている中にあって、
本作品は幸いにも
角川文庫に収録されました。
ぜひご賞味ください。

〔本書収録作品一覧〕
河獺
艶書御要心
素敵なステッキの話
夜読むべからず
喘ぎ泣く死美人
憑かれた女
桜草の鉢

霧の夜の放送
首吊り三代記
相対性令嬢
ねえ!泊ってらっしゃいよ
悧口すぎた鸚鵡の話
地見屋開業
虹のある風景
絵馬
燈台岩の死体
甲蟲の指輪

(2018.8.16)

mollyroseleeによるPixabayからの画像

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